忘備録

考えたことを書いて忘れる用の何か。

風立ちぬ 感想(ネタバレあり)

※ちなみに漫画も原作の「風立ちぬ」も読んでいないので全くの初見の印象です。
 
 個人的には夢と現実の分割が綺麗に決まっていて、この区分けを仕掛けてくる瞬間の何回かが好きなシーンだった。幼年の頃から夢の中で伯爵に通じてたり、列車の乗車中にひょっと現れて「じゃ、ちょっとこっち行こうか」的な流れで移行したり、戦闘機が完成してバンザイを受けた後の現実世界置き去りでフェードアウトしていく投げっぷりとかがなんか突飛で非現実さが際立つし、相当意味深だなと。
 途中に療養にきた場所でドイツの人が「全部忘れられる。連盟も。〜も」とか、夜の道で本庄と会話してアメリカ・イギリス・中国・オランダと全部戦争する。と言われているのがどこかメタい感覚も受けた。この辺はやっぱり現実で過ぎた時代的なものを見た後にキャラにのせてはっきりと言わせるもんだろうね。
 後は菜穂子との出会いが基本的に暗かったイメージが。片っ端から雨が降ったりして困難になりそうで、バッチリ出会いの象徴的な演出で晴れているシーン以外が、片っ端から暗雲立ち込めてたり薄暗いものが含まれている感じだった。結婚式の雪が舞い込んでくるシーンも綺麗と同時に儚い印象があって、どうも周り中頼りないけど強行して突っ走る感が。その辺のも含めて生き急ぐ感じが何となく全体的にあった。
結婚の方法とか手順みたいなのは全然知らなくってこういう挨拶とかするんだとか、設計に使っている道具とかデジタル機器のない時代の様子だったり、昭和感というよりも異文化感の方が強かったのが自分の中で意外だった。このへんの地続きが途絶えてる世代というか自分はそういう人間だろうなとか。ただ療養の為に行く施設の環境が悪すぎて冬に外出て何しているんだろう、苦行に見えるというかあれに関してはちょっと詳細が知りたい。
あと再会のシーンで良い感じに恋愛話してるのに「傘が濡れて雨漏りしてますね」と関係ない事いう主人公の自由さはいい。
 妹がちょっと不憫で、まあ幼少からの本来の目的通り兄貴の計らいもあって医者になれたのは良かった部分なんだけど、基本的に調整役というか主人公がやらかしたことの尻拭いばっかりやってて、ラストなんか置き手紙残して役目御免ということで個人的には作中1番の不幸。後なんか幼い絵だった気がする、これは主人公の堀越二郎もそうだけど、ジブリ作画といってもやっぱりあれは17〜18位のイメージだった。おそらく作中では大学出てから5年以上経っているからもう少し貫禄あるイメージあっていいはずなんだけどそれもなくって妹に至ってはかなり妹的な感覚のままだった。
ヒロインは個人的にはモガというか(これは古いか)ハイソなお嬢様という感じでしかも結核持ち設定という。着ている服とか佇まいが上品。だからこその病弱さというか儚さが際立った。
音声の部分だと5.1のサラウンドで後ろからとか「バンッ」とか「ドゴン」みたいな衝撃音をどデカく入れていくんじゃなくって、普通に入っていたのは個人的には好きだった。劇場のスピーカーから振動音がなるくらい大きい効果音が鳴るのもあるけど、この位でやる方が十分に画面に集中できる。
エンジンとプロペラ音、あと多分地震の音も人の声で音を当ててたのかっていうのが気になった。圧倒的につくられていた飛行機の作画というかメカ具合とかもその音声部分でちょっとフィクション感が上がったのは意図的なんだろう。
主人公の声に関しては普通のおじさんの「愛してる」的な囁きって実は初めて聞いて、確かにマイクに乗り切っていない声だと一般人っぽくってその分のリアル感があった。イケメン声とかきっちりとマイクにのっかっている音じゃないというのが逆にいい気はした。
後は主人公が飛行実験の最中に熱中しすぎて環境音がなくなっていき無音になるシーンのリアル感が大きかった。音の消え方と、ふとした瞬間に戻ってくるタイミングが妙に自分の中での「こういうのあるな」と感じる部分が大きかった。
飛行機に関しては完全に命題が「軽い、速い」という部分に集中していき、最終的に「こんなに速い戦闘機が出来た」で一区切り付いた訳だけど、夢のなかでの(世界を西廻りに行く最中の列車から行った世界含む)みんなが乗って楽しんでいる飛行機を作りたくて提示していた博士と最後の場面で、破壊された残骸が地面に残った中で大量のゼロ戦が飛んでるシーン、「なかなかいい物を作ったじゃないか」と博士に言われるという差が大きいのが何だか物悲しい。まあ、博士の生み出したかった飛行機のシーンでは過剰な笑い声とか笑顔のシーンが入っていてこれもちょっと違和感を感じたので、理想とのギャップに関してはどっこい位で現実はやっぱり博士も戦闘機ばっかりだったのかもしれない。が、あっちは仄かに軍事政権に対しては楯突いて飛行機製作を辞めてるので作品中での一歩先を行っている感は否めない。といってもお互いにスタンスとしてはずっといいものを目指すという方向性自体には変わりないか。
主人公はラストシーンでの生きている分というアドバンテージもあるが、あのラストシーンの終わり方だともう主人公は上を見上げたり空を見ないという感覚というか雰囲気を自分は受けたのでここまでだろうか。10年間が限界でそれの総括をしてる訳だしね。
最終的な儚さとか短さが目立って、その代わりロマンが大きい分バランスがとれているんだろうなと。軍人とか上の人間との会話を流して流して「全力を尽くします」で終わらせて、戦争性をとにかく排除しながら飛行機に向ける姿勢を正面に見せるとこんな感じなのかなという。後は夢の中と菜穂子に会うまでの2つはともかく、派手さを抑えこんで割りと実生活部分は地に足の着いた逃亡生活をしていたのが印象的。フィクションに偏り過ぎないどことない現実感があった。ただ、やっぱりあのあっという間に設計過程と結果が終わっていく流れはちょっと単純に「はやいな」という感覚は受けた。